「同労者」第10号(2000年7月)                            目次に戻る

信仰良書

− 神 へ の 道  (4) −

D.L.ムーディー 著   仙台聖泉キリスト教会 山田 大 訳

神の愛は絶えることがない

 神の愛は変わらないというだけでなく、絶えることのないものです。イザヤ49:15−16にこのよ
うに記されています。「女が自分の乳飲み子を忘れようか。自分の胎の子をあわれまないだろ
うか。たとい、女たちが忘れても、このわたしはあなたを忘れない。見よ。わたしは手のひらに
あなたを刻んだ。あなたの城壁は、いつもわたしの前にある。」
 私達の知り得るもっとも強い愛は母親の愛です。人がその妻と別れる理由はたくさんあるで
しょう。父親は子供に背を向けることもあるかも知れません。兄弟や姉妹ならば、根深く対立す
ることもあります。夫が妻を捨てることもあるでしょう。或いは妻が夫を…。しかし、母親の愛は
すべてを耐え忍びます。世の人々がなんと言おうと、たとえ全世界が非難しようとも、母親はわ
が子を愛しつづけ、その子が悪の道から立ち返り、悔い改めてくれることを願います。母親は、
赤ちゃんの頃の微笑みや、子供の頃の陽気な笑い、青年期に抱いた期待を覚えています。そ
して、わが子が無価値な人間だという考えには決して至らないのです。さらに、死も母親の愛を
押さえつけることはできません。それは死よりも強いのです。
 重病の子を看病している母親を見たことがあるでしょう。彼女は、もしそれでわが子を救える
のなら、どんなにか喜んで、代わりに自分が病気になりたいと願うでしょう。来る日も来る日も、
彼女は看病を続け、誰にもそれをさせようとはしません。

 この子は私の息子
   私は今でもずっとこの子を愛する

 しばらく前、私の友人がある立派な屋敷を訪れ、非常に多くの友人達と会った時のこと、皆が
帰った後、彼は忘れ物をして取りに戻ったのだそうです。すると、その家の裕福な夫人が、浮
浪者のようなみすぼらしい男の陰に座っていました。その男は、放蕩息子のように遠く家を離
れさまよっていたのです。しかし、その母親は言いました。「この子は私の息子です。私は今で
もずっとこの子を愛しています。」9人か10人の子を持つ母親がいたとして、もしそのうち1人が
道を踏み外したとしたら、彼女はその子を他の子たちより一層愛するのではないか、と思われ
ます。
 ニューヨーク州に住むすぐれた牧師の一人が、ある非常な悪人である父親について私に語っ
てくれました。母親の方は、息子が堕落するのを阻止するために出来る限りのことをしました
が、父親の影響力はさらに強かったそうです。彼は息子をあらゆる種類の罪へと導き、その若
者は最悪な犯罪者の一人となってしまいました。彼は殺人を犯し、裁判中でした。裁判の間
中、未亡人である母親は――父親はすでに死んでいたので――法廷に座っていました。証人
が、息子に不利な証言をする時は、彼より母親のほうが何倍も傷つけられているようでした。
彼が有罪と評決され、死刑判決が下された時、他の人々は皆、評決の公正なことを感じ、結果
に満足な様子でしたが、母親の愛は決してたじろぎませんでした。彼女は執行猶予を請求しま
したが、認められませんでした。死刑執行の後、遺体の引渡しを切に願いましたが、この願い
もまた退けられました。慣例によって、遺体は刑務所の構内に埋葬されたのです。その後まも
なく母親自身も死にました。しかし、生前彼女は、息子の隣に埋めてほしいという願いを表明し
ていました。彼女は殺人者の母として知られることを恥としなかったのです。
 スコットランドのある若い女性のこんな話があります。彼女は家出をし、グラスゴーで浮浪者
となっていました。彼女の母親は、いたるところを探しまわりましたが、徒労に終わりました。つ
いに、その母親は娘の写真を深夜伝道所の壁に掲示してもらうことにしたのです。そこにはあ
ばずれ女たちがよく出入りしていました。多くの人は写真をチラッと見るだけでしたが、一人の
人が立ち止まりました。その写真の顔は彼女が子供の頃、彼女をじっと見つめてくれたあの愛
しい顔にそっくりでした。母は、罪の中にいるわが子を、忘れ去っても見捨ててもいなかったの
です。そうでなければ、この写真がここにあるはずはないのですから。その唇はかすかに開い
て、こう囁いているようでした。「さあ帰っておいで。私はあなたを赦しているわ。今でもずっとあ
なたを愛しているのよ。」
 その哀れな娘は、激情に圧倒されてうずくまりました。彼女こそが放蕩娘だったのです。母親
の顔が目に浮かび、心が砕かれました。彼女は自分の罪を真実に悔い改め、心いっぱいに嘆
きと恥じらいを持って、かつて自分が捨てた家へ帰りました。そして母親と娘は再び結び合わさ
れたのです。
 



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