「同労者」第29号(2002年2月)                          目次に戻る

信仰良書

 − 神 へ の 道  (22) 
D.L.ムーディー 著   仙台聖泉キリスト教会 山田 大 訳

(前号より)ある天幕の中に、愛する息子――丁度大人の男へと成長し始める人生の花盛りの
時期にある――の上に覆い被さって身を屈めているイスラエル人の母親が見えます。彼女は
我が子の額に溜まった死の汗を拭い取っています。やがて息子の目はどんよりとして動かなく
なり、生命は急速に衰えて行こうとしています。我が子を愛する母の心はもはや引き裂かれ血
を流さんばかりです。するとその時、彼女は宿営の中に騒ぎの声を聞きます。大きな叫び声が
沸き起こっています。あれは何の声だろう。彼女は入り口のところへ行き、
「あの騒ぎは何ですか」
と行き交う人々に尋ねます。すると誰かが言います。
「おや、ご婦人。宿営に来たあの良い知らせを聞いていらっしゃらないのですか」
「いいえ」
彼女は答えます。
「良い知らせですって!何のことですか」「おやおや、本当に知らないのですか。神が特効薬を
くださったのですよ」
「何ですって!蛇に噛まれたイスラエル人のためのですか。ああ教えてください。どんな薬なの
ですか」
「神はモーセに、青銅の蛇を造りそれを宿営の真ん中で旗ざおの上に立てるようお命じになっ
たのです。そして誰でもそれを仰ぎ見れば生きると仰せられました。あの叫び声はその掲げら
れた蛇を見た人々のものです」
 母親は天幕に戻り言います。
「息子よ。やったわ。あなたは死ななくていいのよ!お前。いい知らせよ。あなたは生きられる
のよ!」
しかしその息子は既に体が麻痺しており、天幕の入り口まで歩くことも出来ないほど弱っていま
す。母親は力強い腕で息子を抱え上げて言います。
「向こうを見なさい。あそこ、丘の下のところ!」
しかし彼には何も見えません。
「母さん。何も見えないよ。何を見ろって」「いいから見続けなさい。きっと見えるから」
 とうとう彼はきらきら光る蛇をちらっと見ることが出来ました。するとどうでしょう。彼は癒され
たのです。
  若者の回心の多くもこのように起こります。
「我々は突然の回心なんて信じない」
と言う人々もいます。しかしあの青年が癒されるのにどれだけ時間がかかったでしょう。蛇に噛
まれたイスラエル人たちが癒されるのにどれだけ時間がかかったでしょう。ちらっと見るだけだ
ったのです。そして彼らは癒されたのです。(つづく)


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