「同労者」第42号(2003年3月)                  目次に戻る    表紙に戻る

論  説
 ― 今こそ必要な地の塩の働き ―


 「あなたがたは、地の塩です。もし塩が塩けをなくしたら、何によって塩けをつけるのでしょう。
もう何の役にも立たず、外に捨てられて、人々に踏みつけられるだけです。あなたがたは、世
界の光です。・・あなたがたの光を人々の前で輝かせ、人々があなたがたの良い行ないを見
て、天におられるあなたがたの父をあがめるようにしなさい。」(マアタイ5:13〜16)


いよいよ連合も総会を迎え、聖会と議事会を開催して、2003年度の歩みに入っていこうとして
います。
その歩みにあたって、私たちは神を信じる信仰に生きているものではありますが、この世に生
活をしていますから、世の中の動きの影響を受けざるをえません。世の中の情勢に目を留め
いくつかを拾い上げてみましょう。マスコミを賑わすニュースは、北朝鮮による日本人拉致問題
でひとしきりでしたが、今度はアメリカがイラクと戦争をするという事態です。ただでさえ全体とし
て経済が思わしくない状況に拍車がかかると心配されています。不況の影響はすでに私たち
の家庭の経済、教会の経済状況に及んでいます。今日本の失業率は5%を越えています。奥
田経団連会長の予測では、失業率が6.5%を越えると社会不安に至る恐れがあるとのことで
す。つまり、かつて経済不況が原因で米騒動なる暴動が日本でもありましたが、そういった事
態が発生しかねないと言うのです。今年の高校卒業生の就職内定率は12月末現在の統計で
約50%の県が多数あります。3月になっても4分の1位の卒業生が就職出来ないでしょう。
 失業に加えて、年金組合、健康保険組合などが、破綻あるいは破綻しつつある状況です。保
険会社も既に多数倒産しましたし、今後も油断できません。国の年金、健保もどうしようもない
赤字状態です。老人の介護費用を捻出するということが消費税を上げる口実になっています。
政府は現在5%の消費税を23%まであげるつもりです。
 道路、郵便、金融公庫などの民営化が実現します。民営化されても国の歳出削減のため国
が金を出さないというだけで、その事業がよくなるということではありません。
 バブル崩壊といわれている日本の目減りした資産、つまり土地と株その他、その総額は120
0兆円にも上ります。これらはもともと人々がその値段で買ったからそう評価されていただけの
もので、評価されなくなるとなくなってしまう性質のものなのです。会社の経営が思わしくないの
で、土地や株などの有価証券を担保に金を貸した銀行が大変になってしまったことは皆さんの
よく知っているところで、不良債権といって騒いでいるものがこれです。銀行が倒産すると、経
済不安が起きるので政府は銀行の建て直しに躍起です。
 しかし不況は一向に出口が見えない感じです。もちろん政府機関の担当者たちも決して何も
していないわけではないのです。かつて産学協同といいましたが、今は産学官協同と叫んでい
ます。産は民間企業、学は大学、官は政府機関や地方自治体です。産学官の力を動員して何
とかこの不況の出口を求めて躍起です。ひとつの施策として「産業クラスター」なるものを推進
しています。大学の研究結果をもとに小さな企業がクラスター(塊)になって新しい産業を興そう
というものです。ただ仮にそれが成功したとしても、その効果が出てくるにはかなりの年月がか
かるでしょう。
 また環境問題への関心の高まりがあります。京都議定書によって世界の各国間で約束され
た、地球温暖化物質の排出削減、その影響は必至です。炭酸ガスを出さないからと日本の政
府が推進してきた原子力発電も検査データ隠しに端を発し、その安全性が危惧されています。
原子炉燃料のリサイクルの切り札として進められて来た高速増殖炉「もんじゅ」に対する国の
審査無効という裁判所の判断にそれらが反映されているものと考えられます。原子力発電が
停滞すると、石油輸入に頼っている日本経済に大きな影響がでるものと予測されます。
 ダイオキシンなど有害物質が発生するということが分かってきて、簡単にゴミの焼却さえもで
きなくなりました。ゴミ処理を抱える地方自治体は対策に躍起です。岩手、青森、秋田の三県
にまたがる地帯で過去最大の産業廃棄物不法投棄が発見されました。ゴミ処理に困っている
現われなのです。家電製品などを手始めにあらゆる製品の使用後の処理が問題となり、廃棄
物リサイクル法という法律がつくられました。その処理代のつけは使用者に回ってくるでしょう。
 ひところは「環境ホルモン」といってマスコミも騒ぎましたが、最近はちょっと忘れられている感
がする有害化学物質の影響は決してなくなっていません。発ガン性物質が含まれたダイホルタ
ンという無登録農薬のため東北の農家は大打撃をこうむりました。狂牛病もぽろぽろ発生が
続いています。この問題を契機に食品偽装事件が次々と発覚したり、残留農薬などから食品
の安全問題が騒がれつづけています。
 犯罪の増加も感じられます。日々、強盗殺人やら、自動車や建設機械の大規模な窃盗、重
機を用いて金庫を盗んだ、ホームレスの人が若者に殴り殺された、ストーカー殺人だ、等々の
報道がいとまもありません。ここにきて麻薬、覚せい剤などの薬物の問題もまた多くなっていま
す。
 いじめ、不登校、・・といった問題は解決していません。これらは就学期の子供さんたちを抱
えていらっしゃる方々にとって、切実な問題でしょう。ひきこもりは幅広い年齢層に及んでいま
す。
地球温暖化と言われますが、熱帯の海にできるさんご礁が東京湾にできていることを皆さんご
存知でしょうか。ですからマラリヤ蚊など熱帯にしかいなかったと思われる動物が北に広がっ
てきつつあるようです。現実に熱帯の蜘蛛などが日本にも広がってきているのです。アメリカで
は蚊が媒介する日本脳炎に似た脳炎が広がっていると報じられています。エイズがもっとも多
いのはアフリカであるとのことですが、中国などでも広がり困っているようです。癌・生活習慣病
等々病気になれば、医療費の高さに驚かされるでしょう。長寿になったと喜んでいたのもつか
のま、日本は世界一の寝たきり老人を抱える国になりました。今後どうしていくのでしょうか。
 2ページにも渡って書いてみましたが、これでも日々起きている社会情勢のほんの一角に過
ぎません。
ひるがえって、これらの社会情勢のなかに立っている教会に求められていることは何か考えま
しょう。そして私たち一人ひとりは何をしていったらよいのでしょうか。
 政治を通して社会を改革するのでしょうか。ゴミをどうにかするのでしょうか。社会問題の何
かに協力するボランティア活動をすればよいのでしょうか。町内や身の回りで起きている問題
に、通常の社会人として参加することはよいでしょうが、それが私たちのクリスチャンとしての
使命にはなりえません。それは不信者にもできることです。通常は不信者にできることを神が
信者に託されることはありません。確かに信者の人数が増えれば社会も改革されるでしょう
が、今の日本では到底及びません。
 ですからこの社会情勢は、簡単には変わらないということを前提に取り組まなければなりま
せん。そしてクリスチャンでなければどうしてもできないことにこそ、私たちの使命があります。
 家、教会の外に一歩でれば、私たちの子供たちも世にの力にさらされます。彼らは守られな
ければなりません。彼らの当面することは個々の問題ですから、一口で言える解答があるわけ
ではありません。親は絶えずそれに関心を持ち事態を把握し、対処することが必要です。
愛するものたちの救いに加えて、生活の体勢、経済のこと、病気のことなどなど私たちの抱え
ている課題は山ほどあります。それゆえ叫びだしたくなります「神様、これらのことに対処する
知恵をください。」と。ですから「だれにでも惜しげなく、とがめることなくお与えになる神に」(ヤコ
ブ1:5)祈り求めましょう。
 イエス・キリストはこう言われました。
 「あなたがたは地の塩です。」
 イエス・キリストが言われる塩の働きは、それが人間の罪の問題に対するものであることは
歴然です。人は罪から救われるならばこれらの社会情勢のなかでも腐らずに聖く生きることが
でき、「わたしが聖であるから、あなたがたも、聖でなければならない。」(ペテロT1:16)との命令
を全う出来ます。取り組みはまず、私たちの愛する家族、親族、親しい隣人、教会に連なって
いる人々になされるべきです。もちろん、神は特定の人に海外宣教や社会事業、社会奉仕な
どを委ねられるでしょう。それは尊い仕事です。一方、身近な人々の救いは特定の人の使命で
はなく、すべてのクリスチャンに課せられている使命です。これらの人々が救われて、この世か
ら引き上げられることが地の塩の働きです。これこそ今私たちに求められている事です。





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