巻頭言
ワープロを使い始めてからもう15年になる。当時から言われてきたことだがワープロの用途
は印字機としてだけではなく、文を作り、組み合わせ、物事を推敲しその 結果を文章として練 り上げて自分自身の心と知識を表現する道具である。手書きを助けるための道具ではなく思 考作業を組み上げるための電脳である。
ワープロで文章を作るときには、出だしも主眼点も結びもかまわず思いついたことから書き
始める。あとで、語句を辞書で確認したり、その順序を替えたりして体裁を整えていく。必要な 文字数内になるよう削ったりもする。
気をつけたいことは、急ぐものであってもその日のうちに仕上げようとせずに次の日に読み
返し、さらに推敲を重ねていくことである。そして、私の場合は一度プリントしたものを妻に見せ る。タイピングの間違いや語句の調子の不安定なところを指摘してもらい、後日その意見を幾 分は取り入れて仕上げとするようにしている。
日本語をワープロで打つと漢字が惜しみなく出てきて便利なようではあるが、文章の中に漢
字をむやみに使いすぎると読みにくい表現になってしまう。なるべくかなを使うのがいい。漢字 とかなの使い分けには何をよりどころにしたらいいのだろう。私は、新改訳聖書が使い分けて いる基準を模倣することにしている。だから、「子供」とは書かずに、「子ども」とする。そして、 自分のことを言うとき、「わたし」とせずに「私」と書く。「マリア」と書きたいが「マリヤ」とする。 「使徒行伝」と書かずに「使徒の働き」とする。「命」とか「言葉」は、ほとんどの場合、「いのち」 とか「ことば」となる。
しかし、新改訳聖書はパソコンの普及前に出来た翻訳である。今の時代にふさわしい現代日
本語の聖書が要望される。
用語用字の例を聖書の中で探し確認する作業は、今では自分のパソコンに入れてある新改
訳聖書のデータベースが役に立っている。その他聖書辞典、聖書注解書、日本語辞典、英和 辞書などもCD−ROMで利用している。必要なら、時事用語はインターネットという大形で最新 の辞書が答えてくれる。
たとえ、70歳になっても遅くはない。パソコンの持つ力の10パーセントでも勇気をもって始め
てみればパソコンのおもしろさ、便利さ、有用性を味わうことができる。情報の大海原で、多く の学者や研究者が英知をきわめて訳し上げた日本語聖書を自分の作文表現のナビゲーター として小舟を操るのである。 |