「同労者」第100号(2008年2月)                          目次に戻る 

論  説

 − 時代の足音 

「しかし、イエスは彼らに答えて言われた。「あなたがたは、夕方には、『夕焼けだから晴れる』
と言うし、朝には、『朝焼けでどんよりしているから、きょうは荒れ模様だ』と言う。そんなによく、
空模様の見分け方を知っていながら、なぜ時のしるしを見分けることができないのですか。」
(マタイ 16:1〜3)


 昨年、年末近くになって報道されたできごとに、科学技術の上できわめて重大な発表があり
ました。京都大学の山中という教授のチームが、人の皮膚から万能細胞を作ることに成功し
た、というものです。
 皆さんは「耳ネズミ」と呼ばれている背中に人間の耳がついているネズミの写真を見たことが
ないでしょうか?それが、万能細胞の意味を表しています。万能と言うとおり、その細胞からど
の臓器でも作り出せるのです。万能細胞をネズミの背中に埋め込んでそこに人間の耳を作っ
たのです。

 この新しい技術には、二つの重大な意味があります。
 そのひとつは、今まで万能細胞は、受精卵から作っていましたが、その必要がなくなったとい
うことです。卵子を得ることの大変さに加え、ひとりの人間となりうる受精卵を、研究用にしてし
まうことには、絶えず倫理問題がつきまとってきました。それからの解放を意味します。
 もう一つは、心臓、肺、肝臓など何か臓器が欲しい人自身とまったく同じDNAの臓器を作れ
るということです。今までの移植医療は、他の人の臓器であったため、必ず拒絶反応がおき
て、角膜とか腎臓とか僅かの臓器以外は、移植してもらっても長く生きることが難しかったので
す。しかし、この技術を用いれば、自分と全く同じものができるのですから、その拒絶反応が起
きません。移植医療にとって、きわめて画期的なことなのです。
 その経済的な重要性から、同様の研究をしている世界中の研究機関がいっせいにその研究
をはじめ、せっかく日本発の技術なのに他の国に実利を取られてしまうということが問題とな
り、文部科学省が研究予算をつけたといったことに発展しています。

 この皮膚から作る万能細胞は、また別の問題を内在しています。万能細胞は、その名のとお
りなんでも作り出せるのですから、精細胞も卵細胞も作り出せるということなのです。つまり、ク
ローン人間が作れるということです。いままで羊を皮切りに、クローン動物がたくさん作られて
きました。いままでのクローン動物は、卵細胞から、核を除去して、他の細胞の核を入れて作
られていました。ですから常に卵細胞が必要でした。しかし、今回の技術では、それも作り出せ
ることを意味します。倫理基準といって当面は歯止めをかけることでしょうが、誰かがその禁を
破るということが起きることでしょう。男と女の体から取られないで生まれる人間ができるという
ことが、聖書の人類歴史の中でどのような意味をもつのか今は分かりませんが、そのような時
代が刻々とせまっていることを知っておきましょう。



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