「同労者」第63号(2005年1月)
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この「ひつじが丘」は、三浦綾子氏があの有名な「氷点」に続いて書いた第2作目です。多くの
作家がある作品を称賛されつつも、その後の作品がふるわずに終わってしまうのとは対照的 に、三浦綾子氏はこの作品で確かな作家としての能力を明らかにしたと言えるでしょう。
私自身は「塩狩峠」や「道ありき」に感動したのに負けず劣らず、この作品に高校時代感動を
覚えさせられました。いわゆる青春時代に多くの人々が体験する恋愛と結婚、そしてそれにま つわる悩みと葛藤が見事に描かれており、読者の心を全く離さないその筆致は実に見事と言 う他ありません。特に若い方々には、恋愛と結婚を考えるためにも是非一読をお勧めしたいと 思います。「愛するとはね、相手を生かすことですよ」
「愛するとは、ゆるすことでもあるんだよ。一度や二度ゆるすことではないよ。ゆるしつづけるこ
とだ。」
これら主人公の両親の言葉は、私達が心にしっかりと心に刻み込まなければならないもので
はないでしょうか。
また、この作品は人間の罪というものをしっかりと読者に覚えさせる作品ともなっています。
三浦綾子氏は後に「続氷点」を書かれますが、それが書かれる前にはこの作品が「氷点」の続 編だったと言えるのではないかと思います。「氷点」のテーマは「原罪」ですが、この「ひつじが 丘」はこの「原罪」についてさらに明確に私達に示してくれる作品です。
主人公である広野奈緒実は、いわゆるプレイボーイ的な杉原良一という男性に求婚され、結
婚に至るのですが、その後悲劇的な結婚生活を送ることになります。彼女は両親から言われ た言葉のように彼を愛することができず、かえって彼を憎むようになります。そんな中で彼女は 実家に戻り、彼女を追って来た良一もその家で共に生活するようになります。奈緒実の両親で ある牧師夫妻の愛によって良一は徐々に変えられて行きますが、奈緒実は相変わらず彼をゆ るすことができません。最後は良一が悲劇的な死を遂げることになるのですが、彼が遺した彼 女へのクリスマスプレゼントである絵を見た時、彼女は言いようのない衝撃を覚えるのです。そ こには、まるでキリストの前で罪のゆるしを切に乞うているかのような彼の姿が描かれていた のです。その時、彼女は彼を全くゆるすことができず、自らを正しい者としていた罪にはっきり と気付かされたのでした。
彼の葬儀で奈緒実の父親である牧師が語ったメッセージは私達の心を激しく打たずにはい
られません。「人の目には、彼とくらべると、わたしたち夫婦や娘は、善人であるかのように見 えましょう。けれども神はご存じであります。神の最もきらいたもうのは、自分を善人とすること であります。そして、他を責め、自分を正しとすることであります。」 ![]() |