「同労者」第68号(2005年6月)  
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三浦綾子を読む
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− 病めるときも −
東京ミレニアム・チャーチ 牧師  長谷川 与志充
 
 今回は三浦綾子氏の初めての短編集である「病めるときも」をご紹介します。
 私にとってこの書は思い出のある書なのですが、読書会発足に先立つこと約10年前、私が
キャンパス・クルセードという大学生への宣教団体でスタッフとして働いていた時に、この書を
課題図書として学生達と一緒に読書会を行ったことがありました。この体験は読書会発足のま
さに最初のきっかけと言えるものです。
 その時取り上げたのは「羽音」という作品でしたが、その他この書にはタイトルにもなっている
「病めるときも」を含めて5つの短編が収められています。これらの短編はいずれも「偽りの愛」
と「真実の愛」について私達に語りかけてくれるものです。
 以下はタイトルにもなっている「病めるときも」という短編について書こうと思いますが、ここで
は神の前での「結婚の誓い」に対して最後まで誠実であろうとする女性(姉妹)の殉教者のよう
な美しい姿が描かれています。「健やかなる時も、病める時も、汝夫を愛するか」という結婚式
での誓約に対しそのようにすることを誓った彼女は、相手が重度の精神病となった後も彼を愛
し続けます。幸せを願いつつも、多くの悲しみを背負うようになる結婚の代表例を三浦綾子氏
はこの作品で示していると言えるでしょう。そして、結婚とは結婚後に起こるすべての出来事、
それがプラスであろうとマイナスであろうとすべてを受け止める覚悟の上に成り立つものである
ことを読者に力強く語りかけています。結婚後何かの問題が起こるとすぐに離婚という安易な
方向に走ってしまいやすい私達に三浦綾子氏は警鐘を鳴らし、真実の愛はお互いの間に困難
な出来事がある時ほど必要であることを私達に教えています。その背後には、彼女が病めると
きも愛し続けてくれたかつての恋人前川正氏や、夫である三浦光世氏の真実の愛が指し示さ
れていることを決して見逃してはならないでしょう。
 また、この書の登場人物の名前には重要な意味が込められているように思います。
 主人公は「明子」という名前ですが、彼女は生まれつき明るい子ではありませんでした。ある
時から信仰を持ち、すべてを肯定的に考えるよう変えられていったのです。私達も結婚をする
時には、このような性質を持つ「明子」でなければならないのです。
 そして、彼女が結婚した相手は「九我克彦」という人物でしたが、「九我」という変わった名前
には三浦綾子氏の特別な意図があったと思われます。つまり、私達が結婚する相手とは9つ
の「我」を持つような人物、すなわち様々に変わる可能性のある文字通り「九我」克彦だという
ことです。ですから、私達はこのような相手と一緒になることが結婚というものであることをはっ
きりと理解しなければなりません。
 この書を通して結婚について私達は多くのことを教えられることでしょう。

 
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