同労者

キリスト教—信徒の志す—

随想

— ギデオンの働きに参加して —

山田 義

 風の強い寒い午後だった。襟巻きと手袋をして,私たちは中学校の門前で生徒の下校を待った。ギデオン協会のメンバーだ。
 ギデオンの活動は世界の100以上の国や地域で、人類最高の文化遺産の一つである聖書を配布・贈呈という奉仕のために団結したクリスチャン・ビジネスマンや専門職業人が加活動している。各派の教会にある信仰の友の協力により,聖書を、ホテル、旅館、病院、学校などに配布し、警察官、学生・生徒、看護師などに贈呈している。日本でも1950年から聖書贈呈の活動がされており,聖書贈呈の総数はすでに
3,400万冊を越えているという。
 きょうの贈呈の中学校では,予め学校側には聖書の贈呈について理解と許可を得てある。生徒数は970名で校門は3か所あり,その日の下校予定時間も聞いてある。ダンボールに入った新約聖書を運び3か所に分かれる。門から出て来る中学生の一人びとりに声をかけながらギデオンの新約聖書を手渡しで贈呈する。
 今日は,愛知県にある武豊町立武豊中学だ。私自身の母校でもあり,その門から少し行くと私たち一家が住んでいた場所が見える距離の学校だ。もちろんあの伊勢湾台風に耐えた木造校舎はもうない。
 年輩のおじさん、いや、おじいさんたち3人を見つけ、けげんな顔つきをした生徒たちが2人,3人つれだって出てくる。私たちは聖書を左手に数冊を抱え、「きょうは聖書を皆さんに贈呈しています、クリスマスの物語も書いてありますよ、狭き門より入れということばもこの聖書の中にあるんです。聖書を読んだことがありますか。是非聖書を読んでください,帰り道を気をつけて。(受け取ってくれて)ありがとう。」などと声をかける。重い荷物をカゴに入れて自転車のハンドルを両手で押して来る子もいる。手を出そうとするが放せない。「このカゴへ入れていいですか。」「はい。ありがとうございます。」さっそく聖書を開いて仲間とあれこれ言いながら歩いて行く彼らを見るのはうれしい。事後の集計ではこの日623冊を中学生に渡せたそうだ。たとえ今日すぐでなくてもいい、いつかこの本が彼らの目にとまり開かれ彼らの人生の指針となり中に書かれたイエスという人物が彼らの心の支えに,信仰の対象にまでなってくれることを願う。これが国際ギデオン協会の名古屋南支部の活動の一コマだ。(以上は私のFacebookに公開)
 ふと気づくと生徒に混じってひとりの女性が関さんから一冊受け取っている。生徒たちを見送ってきた先生らしい。しかし生徒があいさつして帰って行ったあとも彼女は関さんと話している。今井さんを指して、会ったことがある人だと言っている。鳴海(なるみ)教会で会って覚えているのだそうだ。いろいろ聞いていると名古屋の日本キリスト教団中京教会に行っている人だと分かった。きょうは,ギデオンが聖書贈呈に来るという話を校長から知らされて関心を持って今、出て来たのかもしれない。話の暇を見ては聖書の手渡しは続く。今井さんも近づき話は盛り上がる。ふと気づくとまだ手に聖書を持っていない生徒が歩いて行く、急いで走り寄っては声をかけ渡した。
ああ、クリスチャンの先生が一人でもいるこの中学校の生徒は幸せだ。そういえば私が中学生のころ、母が中学校の先生の名前を挙げてはあの人もキリストを信じている人だよと親しみを込めて息子や娘たちに話していたのを思い出した。
 やがてあたりは暗くなりかかり、生徒の数も少なってきた。時計を見て、そろそろ下校時間も終りですと言うこの先生、いつになったら教員室に戻って行くのだろうか。残った聖書をダンボールに詰めて片付けているとき、今井さんがダンボールを持ったまま地に倒れてしまった。私なんか、どうしようかと思っているときその女性は今井さんが抱えていたダンボールを受け取り「だいじょうぶですか」、私は彼の起き上がるのを助けた。今井さんは照れながらも女性に礼を言い、もう八十歳を超えていること話していた。重たいダンボール箱を私が受け取ろうとすると、いえ、このまま車まで運びますよ、と言う。的埜(まとの)さんや坂口さんも車の近くに集まってギデオンのメンバーが祈った、その祈りに合わせてこの先生の「アーメン」もあった。冷たい風の中の温かい祈りの時だった。

(中京聖泉キリスト教会 会員)

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