第271号
2022年 5月
・・・ 表紙の写真はパンクラチウム ・・・
廣部千恵子氏の許可を得て掲載した聖書の植物のひとつです。
「われはシャロンの野花 谷の百合花(ゆり)なり」(文語訳 雅歌2:1)
インターネットでもキリスト教関連のことは、日本語サイトではなかなか十分な調べが
できませんが、Yahoo.ukから英語サイトに入るとかなりよく調べることができます。
英国版ウィキペディアでは、雅歌2:1は、古い翻訳、セプチャギンタ、ブルガータ訳、
ウィクリフ訳では、全部「野の花」となっていて、King James V.訳ではじめて花を特定
し、rose(バラ)としたと解説しています。
問題の語、野花、ヘブル語の<חבצלת >を、翻訳ソフトで変換すると、今回の表紙
の写真にある<パンクラチウム>がでてきます。パンクラチウムはヒガンバナ科で、スイ
センにも百合にも似ています。地中海沿岸に分布、海岸や砂丘にも育つと解説されています。
結局元のヘブル単語の意味が確定されていなかったのに無理に花の名を当てはめたことが、
混乱の原因のようです。
これにはセプチャギンタを信用するのが最善だったと思いますが。
バラという語を使ったら、野バラはないのかもしれなくて、今度はシャロンのバラとは何
かという議論がはじまり、たくさんの花がそれだと言われたらしい。バラとした理由の推測
ですが、シャロンの野の風景を見るとタチアオイ(原産はトルコ)があるようです。タチア
オイはバラ類、タチアオイ目、アオイ科の植物です。聖書の翻訳にバラの名が使われたのは
その「バラ類」のためかも知れません。ですから「シャロンのばら」は英国で改良された品
種のようなバラではなく、ハイビスカスを指しているのだとも言われます。アオイ科の下に
フヨウ属があって、ハイビスカスはそのフヨウ属です。
ハイビスカスにはおまけがついてムクゲだと主張するひとも現れました。
しかしムクゲはハイビスカスの仲間ですが、中国原産で天然の分布域は東アジアの花なので
ちょっと遠そうです。ウィキペディアは誰でも編集できるので、自説の擁護や、我田引水の
記事がでるのです。それがこのインターネット百科事典のまずい点です。
同じことが英国人にも言えて、バラを使いたかったのかも知れません。
前に取りあげたサフランは、イザヤ書35:1-2と関連付けたものと思われています。
「荒野と砂漠は楽しみ、荒地は喜び、
サフランのように花を咲かせる。
盛んに花を咲かせ、喜び喜んで歌う。
レバノンの栄光と、
カルメルやシャロンの威光をこれに賜るので、
彼らは主の栄光、私たちの神の威光を見る。」