同労者

キリスト教—信徒の志す—

ショートコラムねだ

— 聖戦 —


 皆さんは「聖戦」って聞いたことあります?
十字軍の話でもなく、イスラム教徒のテロの話でもない。これは「天路歴程」を書いた、ジョン・バンヤンの<寓意物語>と呼ばれている作品の名である。
 ルターは1500年代の人、バンヤンは1600年代の人、ジョン・ウェスレーは1700年代の人といえば、いつごろ書かれた作品か大まかに分かる。
 天路歴程の評価は高く・・キリスト教、その救いとはどのようなものかを明快に表している・・熊本バンドに参加した金森通倫は、士族の家の出身だったので、キリスト教に進むことを家族から反対された。彼はこう記している。
「このことを聞き知った家族からはさっそく激しい迫害が起こってきた。・・・わたし自身も多くの迫害のすえに家督の権を奪われ、着の身着のまま、ただ二冊の本を手にして家を追い出されてしまった。二冊の書とは聖書と「天路歴程」であった。そのころわたしは笑いながら、一切を失ってもなお悪魔と戦うために二つの剣を携えていると友と語り合ったものである。」(鎌野善三訳、パジェット ・ウィルクス著「救霊の動力」から引用)
・・武士は大刀と小刀の二つの剣を腰にさしていたので、聖書を大刀、天路歴程を小刀にたとえたのである。
天路歴程の評価が分かる。

天路歴程は人が、滅びの町を逃れ、イエス・キリストの十字架のもとに重荷を降ろし、「この世」を旅して、天国に入っていくまでの過程を著したものである。

 聖戦は、天路歴程と同様、品性等を人物に置き換えて表現し、人を昔の城壁に囲まれた都市になぞらえ、人霊の町と呼ぶ。
人霊の町には三種類の住民がいる。はじめから人霊の町にいた人々、サタンが引き連れてきた人々、インマヌエルが引き連れてきた人々である。
 人霊の町は堅固で、中の市民の同意なしには決して陥落することがなかった。
この人霊の町には、耳門、目門、口門、鼻門、触覚門という門があって外の世界と行き来するのであった。
 この人霊の町は美しく完全に造られていたが、サタン・・ディアボロス・・の軍隊がやってきてこれを攻め取った。(エデンの園のことである。)
ディアボロスは人霊の町の神の像を破壊して自分の像を建て、史官(裁き司に相当する町の役職)であった良心氏を幽閉し、代わりに亡善という人物を史官にした。ディアボロスは人霊の町を奪還されないように防備を固め、偏見氏という人物を一番攻められやすい耳門の守備隊長とした。そして配下に聾者60名を配置して耳門から天軍が侵入しないようにした。
・・ というように物語は進展し、シャダイ王の天軍は御子インマヌエルに率いられて、頑強に抵抗するディアボロスの軍勢を打ち破り、人霊の町を奪還した。

 インマヌエルは生え抜きの人物であった良心氏を人霊の町の牧者とした。
さらにインマヌエルは天軍の一人として連れてきた「神の平和」という名の新しい役人を任命し、迎意卿、市長、史官、副説教者、精神氏、人霊の町の全市民の上に立てた。

しかし、ディアボロスの残党が身を潜めている。
その主立った者は、私通卿、姦淫卿、殺人卿、憤慨卿、好色卿、欺瞞卿、邪眼卿、泥酔氏、宴楽氏、盲崇氏、魔術氏、異議氏、対抗氏、憤怒氏、憤争氏、煽動氏、異端氏という人物たちであった。
そして隙あらばもういちど人霊の町を転覆させ、ディアボロスに引き戻そうとしているのである。
 こういうものたちは、見つけ次第十字架に架けて処刑するように指令されている。

 というような説明で「聖戦」のイメージができただろうか。

「安逸の禍}という表題の章から少し引用してみよう。
・・しかるに人霊の町に一人の男があって、その名を安逸氏といった。
この男はこの町にこのようなすべての恵み(救いの恵み)が与えられた後に、人霊の町を甚だしい奴隷の状態におとしいれたのである。
かれとその仕業のことを簡単に説明すれば、次のごとくである・・・。

 ディアボロスは最初人霊の町を占領した時、自分と同じ状態である多くのディアボロス党の者を率いて来た。
自惚氏という名の者がそのうちにいて、当時人霊の町を占領した誰にも劣らず、鳴らした活動家であった。
ディアボロスはこの男が活動家であり大胆であるのを見て、決死の覚悟を要する多くの企てにかれを派遣したが、かれはそれを地獄の巣窟から共にやってきた大ていの者より立派にやってので、一層あるじを喜ばせた。
ディアボロスはこの男が自分の目的に適うのを知って、彼を取り立てて、高貴なる迎意卿の次位につけた。
さて、当時迎意卿はこの男の立てた手柄を大いにほめて、娘の「平然」を妻に与えた。
さてこの自惚氏は妻の平然との間に子を設け、それがこの安逸氏という人物であった。
人霊には当時このような奇妙な雑婚があったので、誰が生え抜きの市民で、誰がそうでないのかを見極めることは、なかなか難しかった。
安逸氏は、母方は迎意卿から出ているが、父方は元来のディアボロス党であったから。
 さてこの安逸は父母によく似ていた。かれは自惚れ、何事にも平然としており、かつ酔狂な人間だった。
何か噂か、教えか、変更か、変更の噂かが人霊の町を歩く時は、安逸氏は必ずその先頭か殿(しんがり)にいた。
(・・・安逸氏は人霊の町をかき回し、ディアボロスの残党が活動できる場を提供すし、ディアボロスがまたやってきて権力を握る隙を与えたのである。) (高村訳、「聖戰」、新教出版社から)

大変面白く、救いとは何が分かる。
是非読んで見られたし。