読者の広場 <短歌>
— 関東大震災1 —
鈴木 健一
関東大震災は1923(大正12)年のことですから、1940年生まれの私は直接しりません。しかし、明治生まれの父母や、父母より年上の大宮インマヌエル教会の勝間田先生から聞いておりました。東京生まれで主に関東で生活してきました私には、単なる歴史的事件ではありませんでした。
昨年の春、両国にある東京都慰霊堂を久しぶりに訪問してきました。そのすぐ側には私が通った中学校があり、九月一日になると学校の帰りに、ひとりで中を見せてもらったものです。内部は広々とした会堂で、お線香は上げられていましたが、特に何か神仏を祭っているわけではなく、内部の回廊の右側には、関東大震災の惨状を描いた油絵が並んでかけてあるのです。中学生でなにもわからないままでしたが、何か厳粛な思いで、一時を過ごしたものでした。そして五十年ぶりに入って、その瞬間を思い出しました。歌は主に、油絵を前にしてのものです。
堂の段(きだ) 香漂(ただ)へり 遠き日に 粛然(しゅくぜん)と登りき 中学生なりき |
烈風豪雨の 夜(よる)明け 空澄みしとふ 九月一日 大震災の前 |
暗き廊の 油絵伝ふる 壊滅(かいめつ)せし 塵灰(じんかい)の街 ただ立ち尽くす |
(インマヌエル大宮キリスト教会 会員)