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論説

— ips細胞研究の進展 —

 今回はいつもとは少し変わったことを解説しましょう。本誌100号(2008年2月)に「時代の足音」と題して書いた記事の続編と思ってください。内容は、当時は「万能細胞」と呼ばれていましたが、いまは「ips細胞(人工多能性幹細胞)」と呼ばれているものが主題です。
 多能性幹細胞というのは、その細胞を培養すると、増殖できること、種々の器官に分化できること、の二つの能力をもった細胞のことです。前回の時点で注目をあびたのは、この細胞は従来は受精卵から造られて(ES細胞-胚性多能幹細胞といいます)いましたが、皮膚の細胞から造ることに成功した点でした。体のすべての器官を造り出すことができることから性によらずに子供ができる、そういう可能性を秘めています。今は男と男、女と女がカップルとして生きることがまかり通る時代・・神がお嫌いになることは、聖書の記事で歴然ですが・・です。そういったカップルでも自分たちの子供を造れる可能性があるということなのです。
 当面の焦点は、臓器移植への応用です。自分の体の部分であるか否かを判定するのは、DNAによると思われています。ある人とDNAの同一な器官を造り出せば、その造った器官を拒絶反応の心配なく移植できるということが期待されているわけです。
 最近新聞(河北新報)にこれに関する記事が2つ載りました。
 ひとつは、アメリカ、カリフォルニア大学の研究チームが発表したもので、このips細胞を使ってマウスの体細胞から造った器官をもとのマウスに移植したところ拒絶反応が起きた、ES細胞から造った器官は拒絶反応が起きなかった、というものです。当初の期待を裏切る内容であって注目を浴びたわけです。
 拒絶反応とは、移植した臓器を侵入物と見なして、免疫機能がこれを攻撃することです。自然の状態でも自分自身の体を、異物、侵入者とみなして白血球(最近は細かに分類して種類分けしますが、まとめてそう述べておきます)が攻撃をする自己免疫不全という病気があります。自分の器官が自分の免疫機能によって攻撃されるのです。膠原病(関節リューマチなど種々の疾患の総称)などが自己免疫不全によるものと考えられています。もしも、上記のips細胞由来の器官の免疫対策ができたら、膠原病などを治せるかも知れません。
 もう一つの記事は、このips細胞の発見・発明者、京都大学の山中教授らのチームが産業技術総合研究所との共同研究によって、これを効率よくかつ癌化する等の問題に対してより安全にこの細胞を量産する方法を見いだした、というものです。
 増殖と分化の能力を持っているのは、通常は胚細胞(受精卵)だけですが、普通の体細胞に4種類の遺伝子をウィルスに運ばせて(ベクターといいます)その細胞の中に取り入れると、その体細胞が増殖と分化の能力を持つようになることが前回の発見・発明の中心です。問題点はその4遺伝子のうちの一つがないと、その多能性幹細胞はほとんどできない、その遺伝子を入れると効率よく造れるが、癌化しやすいという問題を抱えていました。今回その問題遺伝子に代えて、グリス1という別の遺伝子を使うと、効率よく、癌化せず、さらに不適正な細胞を減少させて多能性幹細胞が造れたということが中心です。
 このことによって、この研究にさらにはずみがつくことでしょう。もちろん動物実験の段階ですが、この研究は着々と進んでいます。再生医療の現場では、画期的な出来事であって、山中教授がノーベル賞を受賞することはもう確実視されています。
 イエスもパウロも世がどのようなところにあるか、よく知っていました。テレビで世界中の様子を見るようになり、更にパソコンによるインターネットが世界中に広がり、情報面で世の中は一変した感があります。上記のような点の科学技術の進展により、また別のことについて、世の中が変わっていくことでしょう。しかし、私たちはそれをよく知りつつ、動かされずに、人を救うものはただこれしかないイエスの福音を伝えるものたちでありましょう。

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